人間や
動物などで、特徴や性質が先天的というのは、生まれたときにすでにその形質や性質が個体に備わっていることを意味する。生物は受精以降、
遺伝子発現の影響を受け、
胎児(または
幼生)の段階で母体などの環境(
遅滞遺伝など)の影響を受ける。しかし「先天的」とは「遺伝的」を意味するとは限らない。母体の影響や遅滞遺伝などには遺伝しないものがある。また
遺伝子決定的な特徴だけをさすとは限らない。先天的であっても環境の影響を受ける性質は多い。また生まれた時にすでに顕著な特徴としてそれを持っているとは限らない。永久歯が生えることは遺伝子決定的であるが、生まれた時の特徴ではない。したがって先天的と言う場合には、遺伝子発現の直接の結果なのか、遺伝子以外の要因で決定されるのか、「決定」か「影響を受ける」か、生まれた時に顕著か顕著でないかなどを区別する必要がある。
人間が持っているほとんどすべての
知識などは、後天的に経験などを通じて学習したものであるが、知識であって先天的なものもある。
動物の場合は、経験による学習を通じなくとも、様々な実際的な知識を生まれながらに身に付けている。これらは「
本能」と呼ばれることがある。例えば
鳥が
営巣するとき、あるいは
ビーバーが
ダムを造るとき、
巣の作り方やダムの作り方を鳥を大まかに知っている。しかし営巣や求愛行動は模倣や試行錯誤によって影響を受ける。例えばアオアズマヤドリの営巣は若い個体よりも高齢の個体の物の方が洗練されている。したがって性質が先天、あるいは後天のどちらかで「決定」されるとはかぎらず、先天的な性質、後天的な性質と二分できるわけではない。特に生物の行動を扱う分野、
発達心理学、
動物行動学などでは特定の特徴がどのように遺伝と環境の影響を受けるか(遺伝と環境がどのように相互作用するか)に注目し、先天か後天かという二分法は用いられなくなっている。人間の知識の場合、
素朴心理学(
心の理論)の他、素朴生物学、素朴物理学、素朴分類学といった生まれつきの知識があると提案されているが、それが実際にどの程度先天的なのかは議論がある。